【プロダクトマネジャー・ウェイ】第2回 プロダクトマネジャー ケーススタディ

10.21


「プロダクトマネジャー」というロール

具体的にプロダクトマネジャーとはどんな人なのだろうか。第1回でも紹介した

「プロダクトマネジャーは、限られたリソースを駆使し、社内外の専門家と連携しながら、製品やサービスを通して自社のビジョンを実現し、ライフサイクルを通じて顧客価値を創出する役割を担うミドルマネジャーである」

というコンセプトを紹介すると、「自分の会社でこんな権限を持つのは難しい。」という反応をいただくことがある。ミドルマネジャーという言葉などからも想像をして、相当な裁量権を持たせてもらえないとプロダクトマネジャーは務まらないというイメージを持たれてしまうようだ。あるいは、日本でこのようなことをやるのは難しく、アメリカでの話しだという指摘もある。

しかし、実際に日本でも、「プロダクトマネジャー」という肩書きではないものの、紹介した定義に近いロールを果たしている事例は少なくない。さまざまな業界での事例があるが、ここではどのような仕事をしていてもイメージがしやすいように、私たちにとって身近な商品である飲料についてのプロダクトマネジャーの事例を紹介しよう。

「キリンフリー」の商品開発

その商品とはアルコール0.00%を謳うノンアルコールビール「キリンフリー」を開発したキリンビールの梶原奈美子さんだ。梶原さんは新卒でユニリーバに入社し、2年半務めた後、いわゆる第二新卒として24歳でキリンビールに転職した。彼女が「キリンフリー」の担当になったのは若干25歳。2年の時間をかけ、27歳で世界初のノンアルコールビールである「キリンフリー」を大成功に導いている。

25歳で「キリンフリー」の担当になった彼女は、当然、社内で大きな裁量を持っているわけではない。また経営学部出身で、しかもキリンビールに入社してそこまで時間が経っていないということもあり、技術的な専門知識もそこまで持っているわけではなかっただろう。

「キリンフリー」の開発は、NHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」にも登場したことがあるマーケティング部長の佐藤章氏が三宅社長(当時)との会話がきっかけとなった。佐藤氏は社長から「市場創造型の開発をやってくれ」という話しを受け「ノンアルコールビールをやろうと思う」と答えたことで始まった。

転職直後、気合いを入れてかかわった商品で芳しい成果を得られなかった(本人は「失敗」と認識している)梶原は、リーダーから「完全ノンアルコールのプロジェクトを始める」という話しを聞き、自ら手を挙げて担当となっている。実際の商品開発は、商品のコンセプトや売り方などを考える梶原が所属する「ブランドチーム」に加え、ビールなどの酒類についての専門知識を駆使して肝心の中身を作る「中身チーム」や社外のコピーライターやアートディレクターなど、社内外の多様な専門家を巻き込みながら開発プロジェクトを進めている。また、実際に売ってもらうためには、「キリンフリー」以外にもさまざまな商品を扱う社内の営業チームに、売りたいと思ってもらわなくてはならない。そして、プロジェクトを進めるためには、当然、経営陣の承認も得なければならない。

「キリンフリー」のコンセプト進化

梶原は「この商品が出ると世の中はどんなふうに変わるだろうか」という問いを立て、商品のコンセプトを考えていった。当初「お酒と人の関係を変える」というコンセプトから始まった検討は、社外のコピーライターも交えた検討で「クルマと生きる人類へ」というコンセプトへ変化していった。しかし、このコンセプトは車をタブーとして扱う慣習を持つアルコールメーカーにおいて容易に受け容れられるものではなく、経営陣によって再考を命じられてしまう。

その後、新しいリーダーから「この商品の〔ヘソ〕は何なのか?」と問われたことがきっかけで、作り手側に寄ってしまっていた彼女たちの視点を変え、「世界初、アルコール 0.00%」というコンセプトを生み出す。これまでノンアルコールと謳っていた商品には、実際には微量のアルコール(0.1〜0.5%)が含まれていた。「キリンフリー」では、「完全ノンアルコール」という上からの依頼を踏まえ、発酵させずにビールの味と香りの開発を「中身チーム」にも依頼していた。

実現したビールテイストのノンアルコールビールの特長を「0.00%」として前面に出すことにより、最終的には懐疑的な社長を動かし、高速道路のSAでの商品発表会という前例のないイベントを実現させた他、社長にイントラネットでこの商品の意義を伝えてもらい、営業チームも動かしている。

その後の「キリンフリー」の成功は多くの人が知る通りである。「キリンフリー」の登場以降、各社が相次いでノンアルコールビールを発売し、多くの商品で「0.00%」という表記を使っている。

「キリンフリー」の事例から学べること

「キリンフリー」については、20代の女性がヒット商品を生み出したということで注目を集めているが、本質としては社内で強い権限や自由な裁量を持つわけではない彼女が、まさにプロダクトマネジャーの定義を地で行くような活動を行い、商品を成功させたという点である。

「大成功」というわかりやすい成果や、「若手女性社員」というマスコミ受けするような点にとらわれず、しかも「自分の会社(業界、組織など)は特殊なのでこの例は当てはまらない」と言うのではなく、本質的なところを読み取り、プロダクトマネジャーの本質を改めて理解していただきたい。

※このエントリーは『なぜ、20代女子社員は超ヒット商品を生み出せたか ― 「キリンフリー」大成功に学ぶ仕事術』を参照して書いている。
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